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ホルヘ・三村

南米通信 ~ラ・ビダ・デ・ホルヘ~

ホルヘ・三村
1960年10月23日生まれ。東京都出身。元々の南米サッカー好きが、89年のコパ・アメリカ取材を契機に沸騰。91年、気がつけば職を捨て、単身エクアドルに立っていた。現在はアルゼンチンのブエノスアイレスを拠点に、コパ・リベルタドーレス、コパ・アメリカ、ワールドカップ南米予選や各国リーグを取材している。そのかたわら、酒を中心とした南米各国のナイトライフにも造詣が深い。というよりそれに溺れ、酒とサッカーの日々を送っている。

アルゼンチン

■カルピンチョ

2010.3.16

 日本滞在もわずかとなり、買い物で忙しい。自分が持っていくものはもちろんだが、日系人のアミーゴからの依頼品が多い。アルゼンチンにも日本からの輸入品を売っている店はあるが、品ぞろえが少ないので、ホルヘに買い物リストを渡し、「船便で送ってくれと」頼んでくる。アルゼンチンでは彼らに世話になることがあるので、恩返しのつもりで快く引き受ける。しかしまとめ買いが多いので、たまに常識はずれな量となる。昨年はゴキブリホイホイを100個買った。夏ではないので在庫が少なかったため、ドラッグストアにあるゴキブリホイホイを全部買い占めることになった。店員から、「おまえの家には、どれだけゴキブリがいるんだ」と思われたに違いない。

 今年は、ダシの素5㎏、ラーメンの中華三昧30個、海苔10帖など食材多数の他に、薬関係の注文を受けた。昔の日本を知っている1世は、「肩こりにはトクホン」という思いが強い。そして、たぶん30年以上前に生まれたアンメルツヨコヨコを知ったときは、「なんて塗りやすい便利なものができたのか」と感動したようだ。したがって、トクホン大箱(140枚入り)7箱、アンメルツヨコヨコ6本というオーダーになった。これは、一般の薬局で個人が一度に買う量としては常識を逸している。「きっと、店員から変な目で見られるだろうな」と思いながらレジへ行った。するとレジにいた薬剤師が、「神経がやられてるんですか」と聞いてきた。変な目で見られるだろうと思っていたため、ホルヘはこの言葉を、「頭がおかしいんですか」といわれたと解釈。客に向かって、「頭がおかしいとはなにごとだ」と怒りかけたが、薬剤師がいいたかったのは、「神経がやられての痛みなら、よく効く内服薬があります」というアドバイスだった。早まって怒鳴りつけなくてよかった。

 出発が近づくと、夜も忙しくなる。12月まで不在となるので、その前に会っておきたい人たちとの飲み会が続く。そんな中、先日ちょっと変わった会合があった。ホルヘ以外の参加者は、いずれも元アルゼンチン駐在員。現地で知り合いになったメンバーによる、アルゼンチン同窓会だ。そういうことならと、ホルヘはアルゼンチン特産の皮革である“カルピンチョ”のブルゾンと靴で出かけた。待ち合わせ場所で落ち合うと同時に、「カルピンチョじゃないですか。懐かしいな」ということで、たちまちアルゼンチンモードに突入。作戦成功だ。

 カルピンチョは南米に生息する動物で、ホルヘは缶詰しか食べたことないが肉も美味。現在は生息数が減ったため保護され、市場に出る肉や皮革のほとんどは養殖もの。革はとてもソフトで、オストリッチのような紋様がある。そして最大の特徴は、水で洗えること。日本での認識度は低いが、2年ほど前、地下鉄のホームで年配の女性から、「それ、カルピンチョですか?」と突然聞かれたことがある。その女性はカルピンチョファンとかで、「失礼ですが」と前置きしながら、どこで買ったのか、いくらだったのかなどを質問してきた。「アルゼンチンで3万円くらいだった」と答えると、「安い。私もアルゼンチンに行きたい」と興奮していた。日本では、売られていたとしても相当高いのだろう。

 実はこのカルピンチョ、日本では別の名前で知られている。それは、カピバラだ。世界最大のげっ歯類で、どこかの動物園では冬に温泉に入ることで人気がある。ホルヘがこのブルゾンを着て人と会うと、「何それ?」と聞かれることが多い。「カルピンチョという南米に生息する動物で」のくだりから説明をはじめ、最後は「日本ではカピバラという」というオチでしめると、「あんなに可愛いカピバラを、食べたり革にするのはかわいそう」という人がいる。若い女性に多い。これこそ、ホルヘが待っていた反応。「かかったな」とニンマリし、すかさず、「『可愛いから殺しちゃいけない』などというのは、間違った反捕鯨主義者の考えと同じだ」と逆襲する。反捕鯨主義者の中には、鯨は頭がいいからとか、可愛いからという理由だけで捕鯨に反対している輩がいる。それなら、バカやブスやブ男は殺してもいいことになるではないか。さらに生産者の立場を説明したり詭弁(きべん)や屁理屈をもってやり込める──。最近なんだか、こういうことが快感になってきた。歳をとると理屈や小言が多くなるというが、これもそういうことなのだろう。このままでは間違いなく、嫌われ者の老人になってしまう。

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