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アルゼンチンでは干物が手に入らないので、自分でサバの干物を作ったことを以前書いた。じつはそのときシメサバも作りたかったのだが、中骨を抜く道具がなかったので断念した。そのことを知った奇特な人が、日本から料理用の棘抜き(とげぬき)を送ってくれた。その後しばらくはサバを買う機会がなかったが、先日ついに購入。シメサバにチャレンジすることとなった。しかし、シメサバといえば生ものである。鮮度が悪ければ当たることになる。しかも、サバは「生き腐れ」といわれるほど足が早い(腐りやすい)。日本なら、スーパーでは「生食用」とか「加熱用」と表示されているし、魚屋さんで「シメサバ作りたいんだけど」といえば新鮮なものを出してくれる。しかし海外では、刺身で食べることを想定して魚を売っていない。したがって、魚屋のオヤジに聞いても要領を得ない。以前エクアドルの卵屋で、「この卵は生で食べられるか」と尋ねたら、「食べたければ、食べりゃいいだろう」といわれたことがある。ようするに、ペットショップへ行き、「この犬は食べられるのか」と聞くようなものだ(ちょっと違うか)。
店が当てにならないとなると、頼りになるのは自分しかない。10匹ほどのサバが並んでいたが、中には目の赤いものもある。まず、これはパスだ。その後は皮の色ツヤ、身の張り具合などを参考に消去法で消していき、残った2匹を購入した。しかしこれは、10匹ほどの中でマシな2匹というだけであり、生で食べられるという保証はない。当たるかどうかは占いと同じ。「当たるも八卦、当たらぬも八卦」だ。そう考えたら怖くなったので、1匹は味噌煮にした。2匹に当たったら死ぬかも知れないが、1匹なら下痢くらいで済むだろう。
シメサバは、3枚に下ろした身を塩で締めてから酢に漬け込む。この塩で締める時間と酢につける時間を調整することにより、仕上がりが大きく変化する。ホルヘは本来、塩も酢も短時間の、刺身に近いものが好きだ。しかしサバの新鮮さが疑わしい場合、これは危険。そこで、塩3時間、酢3時間という長期戦を選択。6時間後にサバを取り出し、中骨を抜いて薄皮をむいてシメサバの完成。一切れ食べてみると、やたらと酸っぱい。シメサバというより、サバの酢漬けだ。そういえば、こちらの酢は日本のものよりきついのだった。そこで、急遽酢メシを作ってサバ寿司にしてみた。すると、これが大正解。シャリと一緒だと酸っぱさがちょうどよくなり、たちまち完食。2日たったのに下痢もしない。もう1匹を、味噌煮なんかにするんじゃなかった。
日本でも一部で伝えられたようだが、元ドイツ代表キャプテンのマテウスがラシンの監督になりそうになった。この話は実にややこしかった。まずラシンの会長が、マテウスと合意に達したと発表。しかしマテウスはドイツで、「南米からオファーはあったが、アルゼンチンではない」とこれを否定した。「なんだ、どうなっているんだ」と思っていたら、マテウスもラシン行きを認めた。先に否定したのは、交渉をオープンにしないというラシンとの約束からだったという。しかし条件面では合意したものの、確定するにはまだ問題があった。それは、アルゼンチンの環境を気に入るかどうか。しかもその当事者はマテウス本人ではなく、奥さんのリリアーナ。22歳の彼女はヨーロッパでは有名なモデルだとかで、マテウスは親子ほども年の違うこの4度目の奥さんを溺愛(できあい)している。06年にブラジルのアトレチコ・パラナエンセの監督を当然辞任したのも、この奥さんが原因だという。
マテウスはラシンの監督就任を前提とした上で、先週ブエノスアイレスに来るはずだった。しかし、ドイツを出発する直前になってドタキャン。これで監督の件もなくなった。ラシンの会長には、携帯メールで断りの連絡が入っただけだという。この連絡方法は、A・パラナエンセを去るときと同じ。きっと、奥さんが南米行きを反対したのだろう。
──と、ここまでが、マテウスが来ないことが分かった時点でアルゼンチンに流れた情報。これだけを読めば、マテウスはなんと非常識で、奥さんに頭の上がらない野郎だ、ということになる。しかし後日、アルゼンチンの新聞がマテウスを直撃すると、事実は全く違うことが分かった。年棒は90万ドル(約8500万円)ということだが、アルゼンチンは選手への給料未払いで今期の開幕が遅れたように、クラブからの支払いが滞ったり履行されないことがある。したがってマテウスは銀行による支払い保証を求め、ラシンもこの条件を受け入れた。しかし出発間際になっても、ラシンがこれに応えられなかったのだそうだ。「サッカーはビジネス。お金のことは重要だ」というマテウス。また、「妻は僕と一緒にアルゼンチンへ行き、あちらでモデルの仕事をするはずだった」と愛妻も同意していたと説明した。これが本当だとしたら、たぶん本当なのだろうが、悪いのは全部ラシンということになる。誤解とはこうして生じるのだ、という見本のような出来事だった。しかし、90万ドル程度の保証が受けられないラシンも情けない。 |