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ホルヘ・三村

南米通信 ~ラ・ビダ・デ・ホルヘ~

ホルヘ・三村
1960年10月23日生まれ。東京都出身。元々の南米サッカー好きが、89年のコパ・アメリカ取材を契機に沸騰。91年、気がつけば職を捨て、単身エクアドルに立っていた。現在はアルゼンチンのブエノスアイレスを拠点に、コパ・リベルタドーレス、コパ・アメリカ、ワールドカップ南米予選や各国リーグを取材している。そのかたわら、酒を中心とした南米各国のナイトライフにも造詣が深い。というよりそれに溺れ、酒とサッカーの日々を送っている。

アルゼンチン

■マラドーナ対ドゥンガ

2009.9.11

 アルゼンチン対ブラジルに行ってきた。これまで、ワールドカップ予選はリーベルのスタジアムで行われていたが、「芝の状態が悪い」とマラドーナが会場の変更を要求したため、ブエノスから約300キロ離れたロサリオ市にあるロサリオ・セントラルのスタジアムが決戦の場となった。今までは往復2ペソ50センターボ(約75円)のバス代で行けたのに、今回は長距離バス代が往復で114ペソ(約3300円)もかかる。おまけに宿泊代も必要。マラドーナはなんということをしてくれたのだ。リーベルのピッチも、今は整備されていて問題ない。さらに、選手も余計な移動をすることになる。ブエノスの玄関は、市内から約30キロのエセイサ国際空港。そして代表の立派な合宿所がすぐ近くにある。空港に近いので、ヨーロッパ組には便利だ。そしてここで数日練習し、試合の日はバスでリーベルのスタジアムへ向かうのがいつものパターン。しかし今回は、エセイサでいつもどおり練習し、試合前日にロサリオへ移動。ホームの利をわざわざ薄くしたようなものだ。

 ホルヘがロサリオへ入ったのも試合前日。安宿ならなんとかなると思っていたが、バスターミナル付近のホテルはどこもいっぱい。8件目でようやく、「今夜は空いているが、明日はダメ」というところを見つけた。しかし、「じゃあ、今夜一泊して明日部屋を出るが、試合が終わってからまた来るから、朝までロビーにいさせてくれ」と頼むと、「普段は使ってない部屋だが、そこでもいいなら明日も泊まっていい」といわれた。ラッキーなことだ。しかしその部屋は、洗濯場の隣に面した屋根裏部屋みたいなものだった。それも料金は1泊100ペソ(約3000円)もする。おのれマラドーナ、ホルヘにいくら損をさせるつもりだ。

 そのホテルは、スタジアムまで一本道で3キロ弱。途中に600メートルほどの陸橋がある。部屋に荷物を置いて、早速スタジアムまで取材パスを取りに行った。時間の関係で行きはタクシーに乗ったが、少しでも経費を削減しなければならないので、帰りはバスにしようと思った。どのバスに乗ればいいのかを近くの店でたずねると、「陸橋を渡るバスはない」という。すべてその手前で曲がるのだそうだ。それならばと、歩いて帰ることにした。そして陸橋の手前に来ると、そこには歩道らしきものがない。自動車専用道路みたいだ。そこでまた近くのガソリンスタンドで、「この橋は、歩行者も渡れるのか」ときいてみた。すると、「渡れるよ。でも端を歩くと危ない。あの人みたいに、真ん中を歩け」といわれた。そこで陸橋を見ると、一人の男が橋のど真ん中を歩きはじめている。そこは、高さが歩道くらいで、幅が約60センチの中央分離帯。本来は自動車専用で、歩行者は「この橋、渡るべからず」なのだろうが、「端ではなく、真ん中を渡ればOK」という、一休さんの世界だった。ホルヘもそこを通ったが、両脇を自動車がブンブン通過して怖い。さらに途中から、中央分離帯の中央に2センチほどの隙間が現れた。そしてその隙間から、下が見えるのだ。ホルヘは高所恐怖症、足がすくむ。延々と続くその隙間を、とてもまたいでは歩けない。したがって、狭い中央分離帯の右側半分を歩くことになった。自動車の風圧はあるし橋は揺れるし下は見えるで生きた心地がしなかった。こんなことになったのも、マラドーナのせいだ。

 スタジアムは、カメラマン席が非常に狭い。しかも平坦でなく、ピッチからスタンド方向へ下っている。そこに電子表示の広告ボード用機材が置かれコードが這い回り、場所によっては足の踏み場もないような状況。試合前、カメラバッグを担いでそこを通ったホルヘは、コードに足を取られて転びそうになった。するとすかさずスタンドから、「トント!」とヤジられた。トントとは間抜けのことだ。ロサリオくんだりまで来て間抜け呼ばわりされるとは、これもマラドーナが会場変更を要求したからだ。このように、マラドーナによって数々の被害をこうむったホルヘだが、そのことは別にしても、今回はブラジルの勝利を望んでいた。それによって4位、5位争いが最後まで白熱するし、神様としてアンタッチャブルな存在のマラドーナが、どのように批判されていくのかも興味深い。試合はブラジルの3-1で終わったが、終了間際にスタンドからドゥンガコールが沸き起こった。おそらくこれが、マラドーナ批判の第一幕だろう。

 先発メンバーの移籍金総額は、アルゼンチンが6億200万ドル(約600億円)でブラジルは6億6千100万ドルだという。この数字は似たようなものだが、平均身長になると176センチと182センチでブラジルがリード。そして、この差は大きかった。マラドーナは、2点を追う後半からアグエロを投入し、テベス、メッシとのチビッコ黄金トリオに期待を託すが、巨漢DFにはじき返されるだけ。その後ミリートを送るが、効果はなし。得点は、MFダトロのロングシュートによるものだった。手持ちの駒をすべて使っても流れを変えられなかった、というよりも、マラドーナは元々のオプションが少ない。これに対して、ドゥンガは冴えている。右SBのアウベスを中盤に入れて、同じポジションを争うマイコンと同時出場させたり、アドリアーノも投入した。フラメンゴで調子がいいとはいえ、すっかり太ったアドリアーノは、まだこの場に立つまでのレベルに回復していない。しかし彼は04年のコパ・アメリカ決勝で、アルゼンチンがほぼ手中にしていた優勝を奪い取った立役者。したがって、彼の与える心理的影響は大きい。交代出場の際、スタンドからアドリアーノにブーイングが飛んだが、彼を嫌う思いはアルゼンチンの選手も同じだっただろう。このように、どうもドゥンガは、ジンクスとか相性にこだわるようだ。以前、チームが不調のときは、娘がデザインしたという派手なシャツを着ていたが、最近は落ち着いたトーンになっている。これも、「派手なシャツでは勝てない」というジンクスではないかと、勝手に想像している。


南アフリカワールドカップ予選、アルゼンチンvsブラジルから


ドゥンガ&カカ
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