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「日本からハットトリックがアルゼンチンに来る」。雑誌のこんなタイトルが目に留まった。これは、日本のストライカーがやってくるということか。となれば、高原がボカにいたときのように注目が集まり、ホルヘの仕事も増えるに違いない。そう喜んだのもつかの間。よく読むと、ハットトリックという名の引退した日本の競馬をアルゼンチンの牧場主が買い、こちらで繁殖させるという内容。サッカーとはなんの関係もなかった。
このような勘違いや誤解はよくあること。最近、日本からの郵便物が届かないことが多いが、それもたぶん勘違いからきている。ホルヘの記事が掲載された雑誌のフットボールライフ・ゼロと、個人からの手紙が届かない。手紙はある女性からのもので、5月19日に出したという。もう、1カ月たつ。普通なら、1週間あれば届くはず。メールで、「まだ届かないの」と再三聞かれるが、メールでやりとりできるならなにも封書を送る必要はない。察するに、ラブレターのようなものであろう。ならば、そんなものは届かなくてもいいのだが、雑誌のほうは困る。取材協力者にも渡さなければならないからだ。
この郵便物不着の原因は、数字の書き方にある。ホルヘの住所は「773」なのだが、この「7」がトラブルの元。日本では普通、横棒の左端に短い縦棒を書く。ところがこちらでは、横棒には手を加えず、縦棒の中央に横棒を引く。これによって「1」と区別する。なんでも、日本の書き方はイギリス式で、横棒を引くのは大陸式というらしい。詳しくは分からないが、フランスやスペインなどヨーロッパ大陸にある国は横棒派で、島国のイギリスは短い縦棒派ということだろう。そして日本は明治維新後に強い影響を受けた関係でイギリス式を採用し、スペインの植民地だった南米は大陸式が根づいたということだ。
南米でもパソコンの文字や印刷物ではイギリス式も使われるが、手書きの場合はあり得ない。そのためなじみのないイギリス式による手書きの「7」を、「9」に誤読することが普通に起こる。キッチリ書けば問題ないが、縦棒2本が接近して頭の部分が3本の線で囲まれたようになると、「9」だと思われる。これが不着の原因になるということを、以前ホルヘに郵便物を届けてくれた偉人的な配達員の話で知った。彼も「773」を「993」と読み、その番地まで行ったが該当者がなかった。そこで、「もしかして7かな」と思ってホルヘにたどり着いたそうだ。普通の配達員なら、「993」に該当者がいなければそれっきり。「ひょっとして7かな」などと考えもしないし、それで「773」を訪ねてみることはない。だから、あの配達員は偉人のように立派な人なのだ。ホルヘにラブレターを送った女性は、「普通の7を書いても、フランスにいる姉に届いた」といっている。しかしこれが、ヨーロッパと南米の違うところ。教育水準の問題もあるかもしれないが、ヨーロッパ大陸ではある程度イギリス式が浸透しており、その存在は広く知られているはず。したがって常に、「7かな、9かな?」と考える。しかし南米では、周囲の国がすべて大陸式なので、なんの疑いもなく「9」と読んでしまうのだ。
慣れないことがうまくいかないのは、日本人も同じ。南米にいれば、大陸式の「7」を書くようになる。しかし日本人が書くと多くの場合、水平であるべき横棒が、左上から右下へ斜めになる。するとこれが、「4」に誤読されやすい。上の横棒と斜めの棒とで三角形を作るようになるからだろう。ホルヘも同様で、以前は無意識のうちに斜め棒を書いていた。そのおかげで、ゴルフ大会で珍しく100を切って「97」の好スコアを出したのに「94」と思われて、スコア誤記、過少申告で失格になりそうになった。
大陸式が、なぜ真ん中に横棒を入れるのか。それは、「モーゼの十戒」からきていると、アルゼンチンではいわれている。十戒とはその名のとおり十カ条の戒めで、「盗むなかれ」とか「殺すなかれ」といった教えだ。そして十戒の7番目が、「汝、姦淫するなかれ」となっている。ここでいう姦淫とは不倫のことだが、それを読んだ人間が、「なに、不倫が禁止だと。そんな規則はとんでもない」と、横棒で消したからという笑い話だ。 |