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カメラマンビブスというものがある。ゴールライン後方にいるカメラマンが、みんな同じビブスを着けているのを見たことがあると思う。あれは、カメラマンを管理するひとつの方法。ビブスには大きく通し番号が入っていて、「何番が誰」と記録されている。したがって、功を焦ったカメラマンが立ち入り禁止区域に入って撮影なんかすると、「あ、23番が違反した。23番っていうとホルヘか。次からあいつには取材許可しない」というように身元が割れ、ペナルティーが科せられる。主催者側にとって、非常に便利なシステムといえる。
このビブスは、もちろん南米にもある。ただ、すべての試合がそうだというわけではない。1部リーグの試合でも、小さなクラブが主催する場合は、ビブスが用意されてないこともある。アルゼンチンの場合、ボカ、リーベル、ラシンなどのビッグクラブと代表の試合は、ARGRA(アルゼンチン報道写真家協会)という組織がカメラマンの管理をする。取材許可やビブスの貸与もARGRAの仕事。そしてサービスのいいことに、ハーフタイムにはサンドイッチやコーラまで用意してくれる。とにかく飲み物があることは、夏の暑いときはとても助かる。暑くなくても、「試合のあと、そのまま飲みに行こう」などと考えているときは、「空きっ腹だと悪酔いするから、ちょっとつまんどくか」ということでサンドイッチのお世話になるのだ。
94年のトヨタカップで優勝し、今季も好調なベレスもアルゼンチンでは名の通ったクラブ。しかし、いにしえの実績が少ないことから、5大クラブと呼ばれるグループに入っていない。そしてこのクラブは、自分たちでカメラマンを管理している。あるときベレスの試合を取材に行ったときのこと。受付で渡されたビブスを着けてピッチに入ると、知り合いのカメラマンが、「おい、ビブスを裏に着けろ」という。よく見ると、カメラマン全員が黒いビブスを裏向きに着けている。片面プリントなので、これでは番号も分からず、ただの真っ黒な布でしかない。理由をきくと、ビブスの表面には、ベレスのスポンサーであるコカコーラのロゴが入っているからだという。でもそれなら、ARGRAのビブスにもコカコーラが入っているので条件は同じだ。しかし彼がいうには、「ARGRAではコーラを出してくれるけど、ベレスはしない。俺たちへの利益がないのに、コカコーラの宣伝をしてやることはない」とのこと。もっともだとも思うが、子供みたいでもある。しかし、みんなが一体となってささやかな抗議行動をしているのだから、郷に入っては郷に従えということでホルヘも同調した。これにより、コカコーラのロゴはもちろん肝心な番号まで見えなくなったのだが、ベレスの人たちは何もいわなかった。
郷に入っては郷に従えのおかげで、もう2カ月半くらい納豆を食べていない。最後に食べたのは、日本を出発する日の朝食だった。アルゼンチンでも、日系人が納豆を作っている。しかしホルヘ御用達の納豆は、最低20パック頼まなければならない。もちろん冷凍保存するのだが、20パックはフリーザーに入らない。そこでいつもは、10パックずつ知人と共同購入している。しかしその知人が、最近納豆への興味を失ったのか話に乗ってこないのだ。もちろん、特定の店に行けば1パックでも買えるのだが、20パックの大人買いに比べると単価が倍くらいする。もともと納豆は日本より高いので、割高なバラ買いには躊躇(ちゅうちょ)してしまう。
そこで以前考えたのが、納豆の自家製造だ。大豆を蒸すか煮るかして、そこに納豆菌を混ぜれば作れるはず。納豆菌の入手先も、ネットで調べられると聞いた。これがうまくいけば、少量ずつ作って、毎日新鮮な納豆が食べられるではないか。そこでネットで検索すると、納豆菌を販売しているところが見つかった。さらに、「納豆の作り方」というサイトにも出会えた。しかしこのサイトによると、菌を付けた大豆を、密封せずに40~45度で24時間置くとなっている。ヨーグルトみたいに、ポットの中で保温してできるものと思っていたが、充分な酸素が必要なのだという。これは問題だ。密封しないということは、あの納豆の匂いが部屋に充満し、やがては近隣住民の鼻へも届くことになる。マンションで魚を焼いても文句をいわれることがあるそうだから、納豆なら100パーセントくる。なんといっても、コーラを出さないからビブスを裏返すという抗議好きな国民なのだ。そこで、自家製納豆は断念。郷に入っては郷に従えだ。しかし納豆への思いは断ち切れず、先日、大豆を醤油で煮て、冷ましてからカラシとネギを混ぜて食べてみた。粘りがないので大豆がポロポロとこぼれ、ご飯と一緒に食べにくい。そこで今度は、水溶き片栗粉で強めにトジてみた。食べやすくはなったが、糸も引かず匂いもせず、「納豆モドキ」と呼ぶのすらおこがましい。かくなる上は、新たな共同購入者を探すしか道はあるまい。 |