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ニュースを見ていたら、ホルヘの家から1キロメートルちょっとのところで、真っ昼間に強盗事件があった。3人組が洋品店に押し入ったが、すぐ近くに警官がいたため、犯人の1人が射殺された。その店には、ホルヘも行ったことがある。大通りの交差点のすぐ近くなので、自動車はバンバン通っているし、歩行者も多い。しかも、そこから30メートルほど離れた店の前には、いつも警備の警官がいる。人目も気にせず、警官の有無も調べない、全く無計画な犯行。思いつきで、行き当たりばったりなのだ。最近はこうした犯罪が多い。だから、逆に始末が悪いといえる。
こうした犯罪者の多くは、通称ビジャと呼ばれるスラムに住んでいる。無宿者が、空き地にレンガとトタンで小屋を作って勝手に住み始める。これが集まったのがビジャだ。ブエノスアイレスには、鉄道の跡地などの広大な空き地がいくつもあり、そこはもう、何十万人もが住むビジャとなっている。もちろん、善人や真面目に働いている人が大部分だが、犯罪者が多いのも事実。一般の人がうっかり迷い込むと、ちょっと怖いことになるという。しかし住民にとっては、そこが天国らしい。必要な物はそろっているし、人々の絆(きずな)が強い。ビジャの子供たちにボランティアを行っている人から聞いたのだが、一度もビジャの外に出たことのない子供や、ビジャの外に行くのが怖いと思っている子供がたくさんいるそうだ。
元プロ選手のツッシーこと津島輝彦のところに、夏休みを利用して日本から3人の高校生がやってきた。彼らは京都の強豪高校の2年生。まるまる1カ月間のサッカー留学だ。ツッシーは日本の旅行会社から頼まれて、現地のチームに入れたり、生活の面倒をみることになった。彼らとは一度フットサルで会い、「そのうち練習を見に行く」といっておきながら、約束を果たさずにいた。そして気づくと、もう帰国は明後日で、明日が最後の練習だという。そこで、最後の練習の写真を撮りに行くことにした。
彼らが練習しているのは、ヌエバ・チカゴの5軍チーム。アルゼンチンのユースは、年齢ごとに3軍、4軍、5軍……となっている。ヌエバ・チカゴのトップは1部リーグにもいたが、現在は3部まで落ちている。しかし5軍は強く、ボカやリーベルにも勝ったという。練習場は、スタジアムの近くにある。このエリアの名前は、マタデーロ。これは食肉処理場のことで、ここにブエノスアイレス市民の胃袋を満たすために牛を殺す施設があるからだ。しかも、これは単なる呼び名ではなく、行政上の正式な名称。他にも、マタンサ(大虐殺)なんていう地名があり、ネーミングのセンスが理解できない。まあ、それはさておき、このマタデーロにもビジャがある。今は地方からの牛の輸送はトラックだが、以前は鉄道で行われていた。このため、食肉処理場の隣には貨物列車が乗り入れていた場所があり、そこがビジャと化したのだ。
「練習場へ行く道は普通の住宅地だけど、道を1本間違えると大変なことになる」と聞いてビビッたホルヘは、ツッシーたちと一緒に行くことにした。しかし、ツッシーが集合時間を間違えて伝えたため、結局1人で行くことになってしまった。教えられた場所でバスを降りると、そこは平穏そのものの町並み。しかも練習場は目の前。これなら、変なところに迷い込む心配もない。グラウンドに着くと、ゴール裏の金網のすぐ後ろが食肉処理場で、牛が目の前に何頭もいる。サイレンが鳴ると、この牛たちが処理室に送り込まれるのだとか。それを見ながら練習したのも、日本の高校生には貴重な体験だっただろう。
この3人は、GKのアツシとカンタに、FWのリョウタという。ここの正GKクリスチャンは、年代別のアルゼンチン代表にも選ばれようかという逸材で、特にパントキックはプロ並みだという。アツシとカンタはこの南米流横蹴りに挑戦したが、マスターするにはまだ程遠い。最終日は外のクラブとの練習試合が組まれており、3人とも出場。リョウタは2得点の活躍で、GK2人もナイスセーブを魅せた。しかし、現地の同年代の選手と比べると、体力面で劣る。これは本人たちも痛感したようだ。ユースの総監督から、「日本に帰ったら、技術練習のほかに体力トレーニングもしっかりやれ」とハッパをかけられていた。1カ月の留学費用は、総額で1人50万円ちょっととか。これが高いか安いかは、この経験を今後どのように生かして努力するかにかかっているだろう。 |