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アルゼンチンの主要交通手段は路線バス。ブエノスアイレス市内中心部では、2ブロック(約200メートル)ごとに停留所がある。すごく便利ではあるが、これが交通渋滞の原因ともなっている。そこで、市長となった元ボカ会長のマクリは、停留所を3~4ブロックごとにするよう提案した。しかしその後どうなったのかといえば、依然としてバス停は200メートル間隔のままだ。ブエノスのバスが便利なのは、他にもある。24時間運行なのだ。夜遊び族や夜間勤務者にとっては、嬉しい限り。昔、アントニオ猪木が都知事選挙に立候補したとき、「都営地下鉄と都営バスを終夜運行する」という公約をし、ホルヘはそれで投票した。世界に冠たる大都市東京なのだから、深夜も公共交通機関を稼動させるべきだと思う。
しかし、夜中は酔っ払いが多い。先日ブエノスでも、酔っ払いの乗客が引き起こした事件があった。無賃乗車しようとしたことを運転手からとがめられ、カッとなってナイフで7回も刺して殺してしまった。これにより、バスの運転手組合は夜間運行のストライキに突入。さすが労働組合の国である。被害にあった会社だけでなく、すべてのバスが午後10時から午前5時まで5日間ストップした。しかしこのストの目的というのが、ハッキリしない。具体的に、「危険手当を出せ」とか「夜間の警官を増やせ」とかいっているわけではないのだ。ただ、「こんな事件が二度と起こらないように」あるいは「治安を良くしよう」という抽象的なことを訴えただけ。つまり、要求なしのスローガンだけのストだった。これで5日間もバスを止めるのだから、利用者としては迷惑な話だ。ホルヘは、帰りのタクシー代がもったいないので、夜遊びに出られなかった。
タクシーが高くなったので、最近はカメラバッグを担いでバスで取材に行っている。以前はリーベルのスタジアムまでの往復が約1000円だったが、今は倍以上。バスなら約80円で足りる(2kmくらい歩くが)。しかしどこのスタジアムも、行きはヨイヨイだが帰りが大変。なかなかバスに乗れない。すでにサポーターで一杯のため停留所で止まらないバスもあるし、ガラガラなのに素通りしていくものもある。以前ボカのスタジアムの帰り、試合後ダッシュでバス停に行ったら、ちょうどバスが来て乗ることができた。フト後ろをみると、サポーターの団体が、30メートルほど向こうからこちらに走ってくる。すると運転手は、「早くしろ」といってあわただしく乗客を乗せると、その団体を置き去りにして発進した。歩合制で運転手をやっているわけないから、ガラガラでも満杯でも収入に変わりはないのだろう。だからそのときは、「こんなものかな」と思っていた。
しかし、先日レコパのアルセナル対ボカの試合の帰り、運転手がサポーターを嫌う訳がわかった。ホルヘは早めにバス停に着いたが、例によって手を挙げても何台かが通り過ぎた。1時間近く待ってようやく乗車すると、車内はボカのサポーターで一杯。3-1で勝った試合の余韻(よいん)に酔い、バスの中でも歌い始めた。歌だけならいいのだが、リズムに合わせて手で窓や壁をバンバン叩く。それがエスカレートすると、道具を使って車内のいたるところを叩くようになる。道具は自分のカギや、途中で買ったビールやジュースの瓶が多い。すると、何も叩く道具を持っていなかったサポーターが、いきなりバスに備え付けのハンマーを手にした。「非常の場合は、このハンマーでガラスを割ってください」という、あれである。そのハンマーで叩くのだから、窓こそ無事だったが、壁はボコボコになっていた。当然、そのハンマーは持っていかれる。運転手が、こいつらを乗せたくないのもよくわかる。
そういえば、ボカが2年連続でトヨタカップに来たとき、1年目にホテルとスタジアム往復の貸し切りバス内で大騒ぎし、翌年はバス会社から断られた、という話を聞いた。日本でもアルゼンチンでも、運転手にとってボカのサポーターは鬼門らしい。 |