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最近は世界的な日本食ブームだ。そのおかげで魚の消費量が増え、値段が高騰しているという。ブエノスアイレスでも、“日本レストラン”や“寿司バー”の看板を挙げる店をよく目にする。しかし、その多くはインチキ日本料理である。日系一世がオーナーシェフの店や、日本人の職人を雇っている店は少なく、残りは二世、三世や外国人が経営と調理を行っている。ようするに、ちゃんとした日本食や日本の味を知らない人がレストランを構えているのだ。知らない人が作るのだから、当然おかしなものが多い。それでも創作料理として美味しければいいのだが、シャリがお粥みたいな寿司、味つけが醤油だけのスキヤキなどが、まかり通るのは困る。
しかし考えてみれば、食べる人も正しい日本料理を知らない。だから、めちゃくちゃな日本食レストランで、ハチャメチャな料理を出されても、「ああ、日本料理とはこういうものか」と思ってしまう。なにしろ日本食ブームなのだから、乗り遅れないために食べなくてはならない。
こうした状況なので、日本料理は野放しとなり、なんだかとんでもないことになりそうだ。テレビでも日本料理の番組が何本かあるが、この前すごい番組を見た。先生はアルゼンチン人の女性だった。日本の雰囲気を作るため、スタジオ内のセットにアジア系の女性を座らせ、最後は彼女にできあがった料理を食べさせるという趣向。彼女は着物を着ていたのだが、その着つけのだらしないこと。それを見たホルヘ、「これは面白いことになりそうだぞ」と番組に見入った。
その期待は裏切られなかった。先生が作ったのは、玉子焼と刺身と吸い物の三品。玉子焼きは、本当にただの卵焼き。砂糖を入れただけで、ダシも入っていない。まあ、これはよしとしよう。問題は刺身だ。ネタは2種類で、そのうちの白身魚は合格点。しかし、もう1種類で驚いた。なんと、アサリである。これは正式にはアルメッハという貝で、ボンゴレなどに使用するもの。辞書によると、おおのがい、ビノス貝となっている。しかし、見た目はアサリ。大きさも中くらいのアサリと同じ。これの貝殻をこじ開けて、「刺身です」といっている。新鮮であれば当たることはないだろうが、食指は動かない。そして刺身の皿のつけ合わせが、大根のツマなどではなく、まっ黄色なタクワン3切れ。
吸い物のほうは、昆布とダシの素を入れて美味しそうに作っていた。しかし、鍋の火を止めてから刺身とかに取り掛かったので、すっかり冷めている。その冷めたものをお椀に注ぐのだが、お椀の中にも、摩訶不思議なものが入れてある。まずは、頭と殻を取った生エビ。生のエビに熱い汁を注ぐという料理はあるであろう。しかし、今やお汁の温度は推定50度。中途半端である。それよりもなによりも、生で食べられるエビがあるのなら、なぜそれを刺身にしない。エビが刺身でアサリが吸い物だろ、と思ってしまう。そしてお椀の中には、厚さ6~7ミリで大きさは500円硬貨くらいの生のショウガも入っている。これは、薬味とか生臭さを消すといったレベルを超えている。
こうして完成した料理が、着物をだらしなく着た女性に供される。アルゼンチン版、“愛のエプロン”である。顔はアジア系ながら、はしの使い方もおぼつかないこの女性は、まず刺身の皿にトライ。そこで、いきなりタクワンを口に入れた。メインの刺身を選ばず、付け合わせから食するという変則攻撃。本能的に身を守る術を知っていて、それでアサリを避けたのかもしれない。その後、彼女の手はお椀を持ち上げた。そして、迷うことなくショウガを箸でつかんだ。やはり彼女は、本能的に身を守る術など知らなかった。「それは、いかん。気をつけろ」とテレビの前で送った念も届かず、口の中に放り込んでポリポリと噛んでしまった。「さぞや、辛いであろう。」と思うのだが、味覚が鈍感なのかプロ意識がすごいのか、そのままかみ続けた。もっとも、ここでみけんにしわを寄せてまずそうな顔をしたら、本当に“愛のエプロン”になってしまう。
この番組を見て、家で料理を作る人もいるだろう。また、レストランでひどい日本食を食べた人もたくさんいる。彼らは真の日本食を知らないが、うまい食べ物かまずい食べ物かは判断できる。したがってインチキ料理を食べれば、「日本料理はまずいもの」と思うはずだ。これは日本にとって好都合。世界中でこの現象が起こり、日本食の人気がなくなれば、現在高騰している魚の値段が下がるのではないか。すべての物価が上がって生活を圧迫しているのだから、インチキ日本料理の横行により、魚が安くなることを期待しよう。 |