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恐ろしく風が強かったこの前の日曜日、ホルヘはサッカー大会に出場した。風下からだと、ゴールキックが自陣の半分までしか飛ばないという最悪のコンディションだった。しかし、ときには悪条件下でのサッカーも面白いものだ。過去には台風の豪雨直撃で、ピッチ一面に水が張り、ボールが常に水に浮いている状況でやったこともあるし、雪が積もった人工芝で、ツルツル滑りながらプレーしたこともある。まるでサッカーにならないが、貴重な体験として、それはそれで楽しめた。
出場した大会は、東京都S区の2部リーグ。我がチームはスーパーミラーズといい、昨シーズンの取りこぼしで初めて2部となり、今季は1部復帰が至上命題になっている。区内には、向陽ミラーズという少年チームがあり、これはホルヘが長年に渡り指導してきたもの。そして、スーパーミラーズというのは、いってみれば向陽ミラーズのトップチーム。選手の多くが向陽ミラーズのOB、つまりホルヘの教え子で、それ以外の選手もホルヘとは何らかの関係がある。そして、彼らのレベルは高い。下手なヤツは入れないからだ。さらに、ユニホームもホルヘが南米から入手したものを無償貸与し、大会参加費までホルヘが払っている。要するに、選手は一銭も払わないで試合に出られるのだ。草サッカーチームとしては、かなり恵まれた選手待遇であろう。
ただし、世の中はそれほど甘くない。なぜならこのチームはホルヘ様の独裁政権下にあるからだ。独裁者は、オーナー兼会長兼監督兼選手として君臨している。ホルヘ様は47歳でド下手にもかかわらず、「兼選手」を貫き通している。前述のような師弟関係と経済関係により、「文句はいわさん」という感じで、堂々と背番号10を着けて、レギュラーとしてピッチに立つ。他の選手にとっては、迷惑この上もない話である。このあたりは、いかにも日本的といえる。南米だったら、いかに恩義や金銭的援助があろうとも、下手クソはベンチと相場が決まっている。当事者が我を張ってレギュラーを主張すれば、「こんなチームでやってられない」と、選手がごっそり辞めてしまうだろう。しかし、偉そうにピッチに立つものの、実のところレベルが高過ぎてついていけない。したがって、前半だけで引き下がっている。がんばってヨタヨタと走り回っても、ボールに触れるのは6~7回といったところ。まあ、それでもベンチにいるよりは楽しいのだ。
しかし強風の日は、間もなく南米に発つホルヘにとって最後の試合だった。そこで試合前に、「今日はフル出場する」と宣言。気合も入りまくっていた。しかし、悪条件下では、実力差がさらにハッキリするということを忘れていた。なんと、ボールに触れたのは、前半で3回のみ。おまけに風下の不利で2失点を喫してしまった。こうなると、監督の立場で考えなければならないし、自分を犠牲にしてチームに貢献するといった日本的な浪花節理論がわき起こり、後半から退くことを申し出た。その甲斐あって逆転勝利となったが、「後半は出ない」といったとき、誰も引き止めてくれなかったことが非常にショックであった。「後半も出てください。大丈夫、逆転します」の一言が欲しかったのだが、誰も何もいってくれない。どうやら、よほど嫌われているらしい。
先にも書いたように、ホルヘは少年チームのコーチもしている。そして最近は、ママさんチームの指導もお手伝いするようになった。ほとんどがサッカー経験のない主婦で、初歩的なトレーニングを行っている。このレベルならホルヘも対応できるのだが、中に一人、元Lリーガーというのがいる。こうなると、もう手に負えない。コーチとして紅白ゲームに入り、彼女と1対1になると、ぶっちぎられてしまうのだ。スーパーミラーズでは鬱憤(うっぷん)がたまり、ママさんサッカーでは屈辱を味わう日々。どうやら、ホルヘは引退の瀬戸際に追い込まれているようだ。 |