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ホルヘ・三村

南米通信 ~ラ・ビダ・デ・ホルヘ~

ホルヘ・三村
1960年10月23日生まれ。東京都出身。元々の南米サッカー好きが、89年のコパ・アメリカ取材を契機に沸騰。91年、気がつけば職を捨て、単身エクアドルに立っていた。現在はアルゼンチンのブエノスアイレスを拠点に、コパ・リベルタドーレス、コパ・アメリカ、ワールドカップ南米予選や各国リーグを取材している。そのかたわら、酒を中心とした南米各国のナイトライフにも造詣が深い。というよりそれに溺れ、酒とサッカーの日々を送っている。

アルゼンチン

■偽装の大先輩

2008.1.6

 里帰り中のホルヘ、ついに携帯を買った。正確にいうと、買ったのではなく、最後の生き残りの0円携帯を入手したのだ。とにかく、ポケベル(今でもあるのだろうか?)や携帯を持つと、常に誰かに縛られているような気がするので、これまでかたくなに文明の利器を拒否していた。しかし、時の流れには勝てず、という感じで入手を決めたのだった。

 とはいえホルヘ、アルゼンチンでは携帯を持っている。メッシの故郷を取材にロサリオへ行くにあたり、現地でアポを取ったり返事を受けたりするのに必要だと思い、出発の前日に購入した。これは、本当に買ったもの。なぜなら、0円携帯は存在しない。もちろん現在も持っているが、外出のときは家に置いておくことが多く、何のための携帯だかわからない。しかし、自由を得るためには、それでいいのだ。その携帯のシステムは、たぶん日本ではもうないカード方式。10ペソ(約400円)や20ペソ(約800円)でカードを買い、それで通話やメールを送る前払いシステム。今でも多くの人が、これを利用している。もはやぜいたく品という部類ではなくなった携帯だが、通話料が高いため、カードでのメール中心という人が主流。そんな状況だから、日本みたいに、小学生が持っているということはまれだ。それに携帯を狙った犯罪が多く、強盗に遭うこともある。奪われた携帯は、内臓チップを交換して、犯罪に使ったり売ったりするらしい。

 非常にバカバカしかったのは、日本から来たサッカー留学生のケース。アルゼンチンに行くかわいい息子のために、日本から携帯を持っていかせた。国際ローミングとかいうのをやれば、日本の携帯が、そのままの番号で使用できる。ただし、国際電話料金になる。それでも、この親子にとっては確実なコミュニケーションラインができたわけだ。しかし、不便な点もある。息子がアルゼンチン国内で、例えば隣の家にいる友達に電話しても、回線は一度日本を経由するので、国際電話扱いになる。親とは数日に一度話し、友達には毎日たくさんかけていれば、えらく高い電話代が請求されたはずだ。よっぽどの金持ちだったのだろう。

 携帯の質に関していえば、日本と南米は比較にならない。だって、カメラ付きのものが出たのは4年くらい前。それ以前には、「日本の携帯はカメラが付いているんだって?」とよく聞かれたり、うらやましがられたりした。ホルヘのアルゼンチン携帯は、シンプルそのもの。電話とメールの機能しかない。まあ、そんな浦島太郎みたいな人間が、今回、日本の携帯を手にしたのだから、その驚きは大きかった。テレビがついている、何じゃこれは! 赤外線とかで他の携帯に情報を送れるって、スパイ大作戦か! GPSで自分の居場所がわかるそうだが、俺は徘徊(はいかい)老人じゃない! しかし、ホルヘにとって便利か不要かはともかく、あんな小さな機械に、ものすごい機能をもたせたことは、称賛すべきことだ。四角いスイカやハイブリッドカーを作る日本人、つまり、常に新しい物を開発しようという精神の現われであろう。それに対し、アルゼンチン人は今あるものに満足していれば、それをグレードアップしようと思わない。現状に満足してしまい、開発意欲は非常に低い。だから、第1次、第2次世界大戦の際に“世界の食料庫”として農作物の輸出でガッポリ稼ぎ、一等国の立場にあったにもかかわらず、現在は二流、三流国になってしまった。敗戦の焼け野原から立ち直った日本とは対照的だ。まさに、アリとキリギリス。しかし中には例外もあり、ボールやタイヤのバルブ、そして心臓のバイパス手術を発明したのはアルゼンチン人だそうだ。さらに、マラドーナの“神の手”もある。現状(足、頭部、胴体しか使えない)に満足せず、手でシュートするというのは、ひとつの大発明だ。それと同時に、ルールを無視して成果を挙げようというこの行為は、今、日本で大流行の偽装そのもの。それを、21年も前に世界のヒノキ舞台で行っている。そう考えると、アルゼンチン人は侮れない。

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