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ホルヘ・三村

南米通信 ~ラ・ビダ・デ・ホルヘ~

ホルヘ・三村
1960年10月23日生まれ。東京都出身。元々の南米サッカー好きが、89年のコパ・アメリカ取材を契機に沸騰。91年、気がつけば職を捨て、単身エクアドルに立っていた。現在はアルゼンチンのブエノスアイレスを拠点に、コパ・リベルタドーレス、コパ・アメリカ、ワールドカップ南米予選や各国リーグを取材している。そのかたわら、酒を中心とした南米各国のナイトライフにも造詣が深い。というよりそれに溺れ、酒とサッカーの日々を送っている。

アルゼンチン

■Mのスパゲティ

2007.9.11

3週前のコラムでお伝えした、アルゼンチン1部リーグにデビューしたウラカンの加藤友介の続報。

第2節以降はずっとレセルバ(2軍)要員で、トップからはお呼びがかからない。それでも本人は、「トップに呼ばれてもベンチを温めるのなら、レセルバで試合に出たほうがいい」と前向きな姿勢でがんばっている。そして第6節はアウエーでのボカ戦。つまり、ボンボネーラでの試合である。これがアルゼンチンのいいところ。レセルバの試合は1軍の前座なので、ビッグクラブのスタジアムでプレーできる。後半ともなればスタンドもかなり埋まり、それなりに声援やヤジも飛び交う。別会場で2軍戦を行うよりは、選手が得るものははるかに大きいだろう。ただ、メインはあくまで1軍戦なので、雨天時はピッチ保護のためにレセルバがカットされることもある。

また、ビッグクラブのレセルバには、1軍を目指す若手だけでなく、ビッグネームの姿を見ることもある。ケガ我や不調でレギュラーを外れた名選手が、復帰を狙い、あるいは調整のためにプレーしている。この日もボカには、クルポビエサやコロンビア代表のバルガスの顔が。相手ボランチとぶつかるポジションの加藤は、このバルガスと頻繁にやり合っていた。確かに、1軍のベンチ要員にはできない経験をしたわけだ。

ウラカンに激震が走ったのは、この試合の2日後だった。モハメッド監督が辞任を表明したのだ。理由は、クラブ首脳との衝突だとされている。しかしこの際、理由などどうでもいい。問題は、加藤を評価していたモハメッドがいなくなったことだ。彼は昨季、加藤をユースからトップに引き上げ、今季も必要な戦力であることを本人に通告してチームに引きとめている。つまり、加藤の後ろ盾的存在だった。それがいなくなることは、加藤にとっては大きな痛手だろう。しかし後任にアルディレスの名前が上がっており、そこに希望が見いだせる。エスパルス、ヴェルディを率いた経験を持ち、日本人の特性を理解する彼が新監督になれば、眼鏡にかなって起用されるかもしれない。

加藤の身辺での、もうひとつの大きな変化は、引越しをして一人暮らしを始めたこと。理由は不明。しかし、彼女がいる気配はない。これまでは他の日本人選手らと一緒に住んでいたが、「やっぱり、一人のほうが落ち着く」そうだ。しかし、これまでは食事を作ってくれる人がいたが、今は自分でしなければならない。どんなものを食べているのか聞いたら、「スパゲティですね。バターと粉チーズを混ぜたスパゲティ」とのこと。ゆでたパスタに、バターと粉チーズを絡めただけの粗食である。しかも、それを1日4回食べているという。栄養面から見たら、こんなのはスポーツ選手が取る食事ではない。

ホルヘはこのメニューを聞いたとき、一人の日本人選手を思い出した。長らくアルゼンチンにいて、昨年まで下部リーグのプロ選手として過ごし、現在は帰国している。名前は、Mとしておこう。加藤に会って初めて知ったのだが、このM、加藤の先輩筋にあたるそうだ。いろいろな助言をもらい、影響を受けたという。日本人の場合、プロ契約といっても給料はゼロだったり、逆にクラブにお金を払っているケースが多い。つまり、プロとは名ばかりで、生活は日本からの仕送りで賄っているのだ。しかしMは、正真正銘のプロフェッショナルだった。敬意をこめて、略さずに、あえてプロフェッショナルと書こう。仕送りなしで、本当にクラブからの給料で暮らしていたのだ。下部リーグの給料などたかが知れており、基本給が2万円前後のはず。Mはたまにバイトなどもしながら、貧乏生活を送っていた。食事は、やはりスパゲティ。安売りのときにまとめて買って、来る日も来る日も、バターと粉チーズだけのスパゲティを食べていたそうな。それを哀れに思ったホルヘおじいさんが、Mを夕食に招いたんじゃと。

なぜか、日本昔話調になってしまった。とにかく、ホルヘがMを家に招待し、何度か手料理を振舞ったことがある。特に料理自慢でもないのだが、何を出しても、「いやー、おいしいっすね」といってバクバク食べる。こっちも褒められてうれしいから、ドンドン料理を作る。それをまたMが、残さず平らげる。ものすごい食欲であった。加藤によると、「Mさんは、ついに食いだめができるようになったっていってました。食べられるときにつめ込んでおくと、2~3日間はおなかがもつそうです」とのこと。人間とは、かくも環境に順応できる生き物なのか。しかし、そんなふうに順応や進化(?)する必要のない環境、つまり正しい食生活が送れていたら、Mはもっと活躍できていただろう。

加藤の場合は、貧しくてスパゲティばかり、というのではない。その点まだ救いがあるが、栄養が偏り過ぎている。M先輩直伝のバター粉チーズパスタは、常食するものではない。いや、常食してもいいが、他に肉や野菜も取らなくてはいけない。この点、つまり栄養の大切さは、指摘したらわかってくれたようだ。しかし、基本的に料理は不得手らしい。今度、“ホルヘ・クッキング道場”に招待してみよう。

ウラカン 加藤友介
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