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ホルヘ・三村

南米通信 ~ラ・ビダ・デ・ホルヘ~

ホルヘ・三村
1960年10月23日生まれ。東京都出身。元々の南米サッカー好きが、89年のコパ・アメリカ取材を契機に沸騰。91年、気がつけば職を捨て、単身エクアドルに立っていた。現在はアルゼンチンのブエノスアイレスを拠点に、コパ・リベルタドーレス、コパ・アメリカ、ワールドカップ南米予選や各国リーグを取材している。そのかたわら、酒を中心とした南米各国のナイトライフにも造詣が深い。というよりそれに溺れ、酒とサッカーの日々を送っている。

アルゼンチン

■疲労骨折の果てに

2007.9.3

最近、男とキスばかりしている。話せば長い。
日本で聞いた話だが、整形外科を訪れる患者の中で、骨折と診断されるケースが増えているという。現代人の骨が弱くなったことも一因だろうが、大きな要因は別にある。それはレントゲン技術の進歩だそうだ。これにより、以前は発見できなかった微細な亀裂などが認識され、骨折患者の割合が増加したという。これは知人の話で、ウラを取ったわけではないから事実かどうかはわからない。しかし、納得できる話ではある。転んだ拍子に手首を痛めたが、グー・チョキ・パーもできるしグルグル回すこともできる。ネンザだと思って医者に行ったら、骨折と診断されたというケースは、ホルヘも何件か知っている。

疲労骨折などは、レントゲンの進歩によって大きく開けた分野だろう。以前は痛みを感じて診察を受けても、疲労骨折が発見されないことが多かった。しかし現在では、レントゲンの進歩とともに“疲労骨折”がメジャー化したため、医者もそれを疑って診るようになり、発見率が上昇しているようだ。しかし、細かな骨折が発見されるようになったからといって、どうだというのか。一般的には、打撲やネンザは軽症で、骨折は重傷というイメージがある。ならば、疲労骨折も重傷なのか。これまでは骨折扱いされず、軽症との認識で手当てされながら、ちゃんと治癒していた疲労骨折さえも。そうだとすると、何か大げさな気がする。

実はホルヘも、疲労骨折もしくは、はく離骨折(たぶん)を経験している。それは、ゴルフを始めて間もないころのこと。時間があればクラブを振り回したり、練習場でバシバシ打っていた。やがて、スイングのときに左の背中が痛みだした。しかし、何もしなければ痛みはない。「スジでも違えたのかな」と思い、その日は切り上げた。家に帰るとそんな痛みのことはすぐに忘れ、間近に迫った2回目となるコースでのプレーに思いがはせる。そして翌日以降も猛練習の日々を送った。もう、こうなると痛みなど無視である。

やがて痛みは悪化し、深呼吸しても痛い、走っても痛い、くしゃみをすると激痛が走るまでになった。あるゴルフ通によるば、これは“ゴルファー骨折”だとのこと。過度な負担をかけたため、ろっ骨が疲労骨折もしくは、はく離骨折を起こしているのだそうだ。しかし、医者などへ行くわけにはいかない。待ち焦がれた2回目のコースプレーを、ドクターストップなんかでフイにしたくないのだ。結局、1打ごとに「グェ」「ギェ」などと悲鳴を発しながら、コースプレーを成し遂げた。そしてプレー後も医者には行かず。大体、ろっ骨の骨折は放っておけば治るし、ホルヘにとっては軽傷なのだ。サッカーには“フットボール・アンクル”、テニスには“テニス・エルボー”、陸上には“ランニング・ニー”といった、特有のスポーツ障害がある。ホルヘのこれは“ゴルフ・リブ”とでもいうのであろうか。ちなみに、ジャンボ尾崎の息子も同じ故障を味わっている。

あのゴルファー骨折から約6年、ホルヘはアルゼンチンでジムに通い始めた。目的は、メタボ対策とゴルフの飛距離アップ。もちろん、サッカーのためということも少しはある。ジムは、日本のそれのように立派ではないが、旧型ながらも一通りのマシンがそろっている。ただし、プールや浴室はなく、簡易シャワーがあるだけ。料金は、使い放題で月額約1,200円。安いには安いが、それでも、「使い放題なら、使わなきゃ損」と考えるのがホルヘの浅ましさ。最近は暇なので、連日1時間半くらい、マシン、バーベル、ダンベルを使ったウエートトレーニングをガンガンやっている。そんな中、つい数日前のこと、知人と握手をしたら右手に激痛が走った。激痛というとオーバーだが、結構な痛みではある。その後も、握手のたびに痛みが走る。他の動作や負荷では一切痛まないが、手のひらを左右(人差し指側と小指側)からギュッと締めるとビリッとくる。痛点は、手のひらの中の小指と薬指のようだ。

そういえば、この前ダンベルでトレーニングしていたとき、右手に違和感があった。どうやら、また疲労骨折でもしたらしい。しかし、こんなものはホルヘにとって軽傷である。だから、ジム通いも続けている。そして不思議なことに、違和感を覚えたときと同じトレーニングをしても、何の痛みもない。問題は、握手だけだ。「怪我をしているので」といって握手を避ける方法はある。しかし手に包帯も巻いていないし、他のことはなんでもできる。それを相手が見たら、「オレと握手をするのが嫌だから、うそをついた」と取られかねない。“お辞儀の国・日本”がうらやましい。この言葉は、安倍総理の“美しい国・日本”より数百倍もホルヘの心に染みる。

アルゼンチンにお辞儀はないものの、握手以外のあいさつ方法がある。それはキスである。欧米では、女性へのあいさつとしてホッペにチュッというのが一般的。しかしアルゼンチンでは、男同士でもそれをやる。親近感の表現であり、ホルヘもアミーゴたちとはこのあいさつをしているが、無精髭のジョリッとした感触は好きになれない。だから知人程度の相手には、これまで握手で対応していたのだ。しかし、この痛みを避けるためにはやむを得ない。「背に腹は変えられない」が「手に顔は変えられる」のだ。ということで、親しくない知人や、ときには初対面の人とまでキスをするようになってしまった。そして一度キスをしたが最後、その相手とはホルヘの右手が治った後も、あいさつのたびにキスをすることになる。今日もこれから知人と会う。嗚呼、またキスの相手が増えていく――。

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