10年1月3日(日)/14:10キックオフ/神奈川県・等々力陸上競技場/観客5100人/試合時間80分 |

前半はアプローチ早くボールを奪う広島観音に対し、尚志はカウンターで応酬し両者互角の展開に。ただし、ハーフタイムにスイッチを入れ直した広島観音は、後半10分に⑨山本が先制点を奪った後も完璧に近い攻守で尚志の反撃を許さず、4年ぶり2度目となるベスト8進出を決めた。 |
前日の山形中央戦を「最少得点差での圧勝」で飾った広島観音と、東北との「死闘」を制した尚志との3回戦。ゲームのあらすじにもあるとおり、結果は広島観音の最少得点差勝利に終わったものの、両者の差は「後半10分過ぎから力の差を感じた」という尚志・仲村浩二監督が話すほど大きくはなかった。さらにいえば、味方ゴール前では体を投げうってゴールを守り、⑦平野伊吹、⑨古庄孝基のテクニカルな高速ドリブルが光った前半のパフォーマンスは、むしろ尚志が勝っていたと断言できる。
では、何が広島観音を勝利に導いたのか? ある人はハーフタイムに広島観音・畑喜美夫監督が珍しくゲキを飛ばして修正した「メンタル面」にあるというであろう。またある人は、チームがこの試合のゲームプランとしていたアーリークロスで、⑨山本邦彦の決勝点をアシストした②小林祐輝の左サイドバック先発起用を最終決定した、キャプテン⑥柳田優介の『決断力』にあるというだろう。また、勝因をスタメン、交代策、システム、ゲームプランなど公式戦における裁量権のほとんどを選手たちに委ねていることによる「自主性の確立」に求める人もいるかも知れない。
恐らくそのどれもが正解であろう。しかし、広島観音の勝因を突きとめようとすると、一つだけサッカーの事象だけでは説明がつかないことがあるのだ。それは彼らのプレーの随所に見える「極限状態の中にあっても失わない冷静さ」である。
例えピンチに陥っても身をていしながら現時点における最適なポジショニングを全員が考え、「相手のシステムが想定していた4-3-3ではなく、4-4-2だった」(⑥柳田)ゲームプランと違った出来事があっても、表向きはベンチにしか気づかないほど通常どおりのプレー水準を保つことができる。プロサッカー選手ですら難しいこの作業を彼らは淡々とこなしているのだ。
その原因は一体なんなのか? と考えるうちに、広島観音高校サッカー部が行っている一つのサッカー外行事の存在を思い出した。
実は広島観音高校サッカー部は、障害者と健常者が一緒に広島湾に浮かぶ能美島の海岸で丸一日遊ぶ「ヒューマンビーチ」というボランティア活動に、毎年8月全部員が参加している。「どんなことがあってもこれだけは外していない」と畑監督も語るように、「人間力」を部のミッションとしているチームにとっては欠かせない恒例行事だ。一昨年に偶然、広島港における彼らの出発風景に出くわしたことがあるが、100人以上の部員が居並ぶさまは、まさに壮観である。
しかし障害者とともに行動する際には、健常者の側に不測の事態に対する冷静沈着さがないと、お互いに命の危険すら生じてしまう恐れがある。その責任たるや誤解を恐れずいえばサッカーの比ではないだろう。事実、「ヒューマンビーチ」に3回参加した⑥柳田は「このボランティアの中で神経を研ぎ澄ますことで、周囲に目を配ることが身につきました。やはり1年生で参加したときと比べて、3年生ではいろいろなことが気づくようになりました」と、この行事による相乗効果を話している。
もちろんサッカーの勝敗を分ける要因はまずサッカー内の要素がいちばんである。しかしその一方で、広島観音が続けている「ヒューマンビーチ」のようなサッカー外の出来事をサッカーに生かす思考ができれば、そのアドバンテージはこのような極限状態のゲームに必ず生きることになるだろう。今回、広島観音と尚志との勝敗を分けた紙一重の差は、そのような発想転換力にあったのではないだろうか。
→監督・選手コメントへ
|