
西部 オシムはやっぱりすごいよ。練習のマエストロだよ、コンサートの指揮者みたい。ハーフコートでのパスを回しながらゴールへの形を練習するようなものが多いんだけど、1個のプレーが終わったあとに、「お前こうやって動いたほうがいいんじゃないの?」って1つ1つ指導する。それはサッカーが上手い人じゃないとできない。アイデアで、遠藤や俊輔の上をいってないと「こうしたら?」なんて言えない。「何言ってんの?」って反論されて終わりだから。
清水 しかも僕らのように原稿を書くまでに考える時間のある立場と違って、その場でプレーがあって、すぐに解答を与えなきゃいけない。瞬間で教えているわけですから。これってものすごいことですよね。
西部 完全に選手と同じ目線なんですよ。それは本当にすごい。プロの選手を上達させることができるプロの監督ですよ。トレーニングでプロのトップの選手を上手くできる監督なんて、何人もいないですよ。トレーナーとしては天才的なところがあると思う。
清水 普通の代表監督といえば、「選手を育てる」というよりも「集まった選手をまとめる」というのが主な仕事なんですけどね。そういう意味では、我々は2倍の給料をオシムに支払わなきゃいけない(笑)。
西部 これは面白い話なんだけど。1990年ワールドカップ準々決勝の「西ドイツ対チェコスロバキア」の試合があって、1-0で勝ってロッカールームに戻ってきた西ドイツの選手に、監督のベッケンバウアーは思いっきり怒鳴ったらしいんですよ。「お前ら! 決勝までまだ何試合もあるのに、こんな暑い中でバカみたいに走り回りやがって! それでもプロか!」って。
清水 クリンスマンたち選手の側は面食らったでしょうね。頑張って走って、ゼエゼエいいながらベンチに戻ってきて、「お疲れさま」の一言でもあるかと思ったら大激怒のカウンター。
西部 本当にプロとしてやっている人間からしたら、勝っているのに暑い中でバカみたいに走り回って最後まで攻めるなんてのは、本当にバカでしかないわけ。ベッケンバウアーはいつもそうやって突然怒り出すから周りは困惑するんだけど、彼が怒った年は必ず優勝してるんだよね。
清水 オシムも第1戦目のカタール戦後、「お前らアマチュアか!」って激怒して、選手もマスコミもみんな驚きました。通訳の方も泣いていたそうですし。こういうふうに、なぜベッケンバウアーやオシムの激怒がみんなに驚かれるかといったら、そのタイミングが早いんでしょうね。「今はチームが危険な状態だ」と感じるタイミングが。先手を打ってチームを変えようとする。
西部 高性能の警報機が付いてるんだよ。本人がそれをどこまで意識してるのかはわからないけど、オシムにはそういう天才的なところがある。
清水 論理的な人ではあるんですが、意外とそういう肝心な部分は感覚でやっているのかもしれませんね。
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