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古沼貞雄 情熱 著: 元川悦子
古沼貞雄 情熱
著: 元川悦子
全国制覇9度の超名門・帝京高校サッカー部。偉業はどのようにして成し遂げられたのか? 名将・古沼監督の指導法が今明らかに!
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トップコラム古沼貞雄 表サッカー裏サッカー>生涯夢求 第3回 柴田峡監督(ヴェルディユース)[2]
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高校選手権へのリーグ戦導入に向けて アンケート集計結果発表

第3回 柴田峡監督(ヴェルディユース) [ページ2/2]

『私が来る前から、ヴェルディの子はすでに改革されていた』(古沼)

柴田
まさか先生と一緒に仕事をさせてもらえるようになるとは思ってもいなかったけれど、2年半一緒にやらせていただいて、いろんなところでヒントをもらっています。
高校生のときに初めて帝京と対戦したときからすでに20年以上たっていますが、ずっと先生が作り上げてきたチームを見ていて、スキがないチームだと思っていました。
先生は、今ではクラブチームの指導者に対しても、人間性の重要性を訴えている。キチッと人間を作らせようとしている。
サッカーやってきた人間は、どうしてもサッカーという側面しか見ない。サッカーだけ教えていればいいという風潮のようなものがJリーグにはあったんですが、そんな風潮に一石を投じてくれました。
特に驚かされたのは、選手一人一人に興味を持っているところですね。
「あの子のああいう取り組み方は面白いよね」とか、先生独自の目線を持っている。
実際にサッカーをやるのは人間で、ましてまだ16、17才の年端の行かない子供なので、先生のようにサッカー以外の側面を見てくれる人の存在はものすごく大事なんだと気づかされました。
そういうことができる人材を、これからのクラブは求めていかなければならないと思います。
そういう意味で、ヴェルディにとっては先生が来てくれたことが大きなプラスになっている。
同じタイミングでこのクラブに来た僕にとっても、本当にラッキーでした。
スキのないチームを作る秘訣を、いろんなところで見させてもらってます。

古沼
柴田君がヴェルディに入ったのは、私よりも2、3カ月早かったよね。その間に、ここの子はすでに“改革”されていた。
私が帝京にいた頃からヴェルディの子供たちはサッカーの実力では抜けていたけれど、礼儀作法はなっていなかった。服装なんかにしてもそう。
それが今では、ヴェルディの子はずいぶん変わった。むしろ高校の選手よりしっかりしているくらい。
他のクラブを見ても、以前に比べてかなりよくなってきた。どこのチームでも気にしている証拠。いろいろな方面からいわれるからだろうね。

柴田
先ほど先生が話をされた金沢のフェスティバルをはじめ、今全国で行われているフェスティバルはどこも高校の先生方が作ってきたもので、参加するのも高校チームがほとんど。そこにクラブチームが“お邪魔”させてもらっている。
全国の強豪といわれるチームはどこも、礼儀という点ではキチッとしている。そういうところにだらしない選手が行っては、しめしがつかない。その結果として、この5、6年で変わってきたという実感はあります。
私はここに来る前、FC東京のジュニアユースを教えていたんですけど、特に中学生年代では中体連よりクラブのほうがサッカーは強い。でも、長い目で見ると、ジュニアユースからユースを経た選手よりも高校サッカーを経験した選手のほうが活躍している。
それはどうしてなのかと考えたんですが、長く物事に取り組める姿勢を持っているのは、高校サッカーで鍛えられた子のほうだと思うんです。高校サッカーで指導されたことが、選手のベースを築いているのではないかなと。
サッカーをやる以前に、そういうところをきちんとしなくてはならないことが大切なことがわかりました。
血気盛んというか、ちょっと目を離すと髪の毛を染めたり耳に穴を開けるような子もいる。そういうことをすると今度は遊びに行きたくなるし、遊びに行けばお金がかかるから、アルバイトをしたくなる。そういうふうに、だんだんサッカーから離れたところに興味が移ってしまう。
高校の指導者は、だからこそサッカー以外のことをうるさくいってきたんだろうなと、改めて痛感しました。
だからヴェルディでも、そういうところは外さずに指導をしようと考えたんです。
でもこういう教育は日本人特有なんでしょうね。
外国の選手だと、高校くらいまでは適当にサッカーしているように見えても、18、19才になるとしっかりする。あれはなんでなんですかね。宗教の違いなんでしょうか。
例えばブラジルだと、人種差別はものすごくあるし、ある日突然隣に住んでいた人が銃で殺されたりすることもある。そういうのを身近に見ているからこそ、大人になったらしっかりしないといけないと考えるのかもしれない。

古沼
ブラジルに限らず、外国へ行けばどこも日本よりも厳しい社会の中で生きていかなければならないのは確か。
でも、国民性でいえば、本来は日本人以上に勤勉な民族はいない。
その証拠に、日本人が考えるレベルの平均的な生活を送れる人は、諸外国ではほんの一握りの人たちでしかない。
チリの海岸沿いを100キロ以上も車で走ったことがあるんだけど、十何キロに1軒の割合で点在する豪邸の持ち主はみな日本人だった。日本から移住した人が現地で成功を収めたからにほかならないわけで、日本人が勤勉な国民であることを証明していると思う。
“東方見聞録”の時代から、日本人の勤勉さは世界に認められている。貧しいけれど清潔で秩序正しい生活を送っている日本人を見た当時のヨーロッパ人が「いつか日本人が世界を制覇する時代がやってくるだろう」と予言したくらいなんだから。
サッカーになれば骨格の違いなど、身体的な影響が大きいから、なかなか成功できないけど(笑)。
だからこそサッカーのやり方だけをヨーロッパや南米から導入しても、決して成功しない。

柴田
サッカー文化としてまだ成熟していないということなんでしょうね。

古沼
そうなんだよ。

ストライカー
日本サッカー協会が設立したJFAアカデミーについては、どのようにとらえていますか?

柴田
初めに、私は否定する立場ではないことを断わっておきたいんですが……。
フランスのクレール・フォンテーヌを模倣していると思いますが、フランスと日本では、お国柄が違いますよね。
例をあげれば、フランスには日本人には想像もできないような人種差別があって、学校に行けないような子供がたくさんいる。
私も現地を見学したことがあるんですが、ヨーロッパでやっていることをそのまま日本に持ってきて、それがすんなり受け入れられるかというと、決してそうではないと思うんです。
「まずやってみよう」ということだとは思いますが……。
私は広島がああいうことをやるのはいいと思うんです。先生がいわれるように、確かに刺激が足りないかなとは思うけど。

古沼
日本人がヨーロッパやアメリカ人と同じ生活を送るようになったとしたら、マネするのもいいかもしれない。でも、日本人は日本人なんだから。
そもそも、高校とクラブがようやくお互いを認めて、マイナス面をどうやって補っていこうかと真剣に考えるようになったところなのに、JFAアカデミーというのはそういう努力を無視するようなもの。
「そんなことやるな」とはいえないけれど、いささか勝手すぎるように思う。町のクラブが一生懸命に選手を育てているのをバカにしているというか……。
「将来のプロ選手はサッカー協会が主体となって作っていきます」といっているようなもので、そんなものには誰も協力しようとは思わない。
いろいろと試行錯誤を繰り返して、最終的にJFAアカデミーを作ることになりました、というのなら理解できるが、今はまだ早すぎる。乱暴だな、というのが私の率直な感想。
とはいえ、Jリーグの百年構想にも疑問を感じる。なんで100年じゃなければいけないのか?
私は、百年構想はゼロにすぎないと思う。だって100年先を見届けられる人など誰もいないんだから。だから百年構想は口だけのものといわれても仕方がない。
百年構想をうたうのなら、5年後、10年後と、その人が関われる計画を明確にすべき。100年後の目標を持つのはいいけれど、自分が責任を持てる目標をたてるべきじゃないかな。

ストライカー
エリート教育は、サッカー協会ではなくJリーグがやるべきということでしょうか。

古沼
広島のようなスタイルは今後増えるだろうね。
広島の後を追おうというところはないけれど、同じ方向に進もうとしているところはすでにいくつかある。

柴田
そうですね。京都しかり……。

古沼
ヴェルディもそう。
ある程度の学力がある子供は、クラブの近くの学校に入れるといったことはすでにやっている。特に地方から来ている子供は。

柴田
あとは通信制を今年から導入しています。ウィザス高校というところと提携して、3人がお世話になっている。そのうちの1人は海外に留学していて、今クラブで練習している子では2人。
通信制なので学校には行きません。だからクラブに来させて、僕らが先生の代わりになって見ている。誰かに見られながらやったほうがプレッシャーになるでしょうから。
午前2時間、午後2時間。サッカー選手としての勉強もやらせています。筋肉のことや社会貢献について教えたり。
軌道に乗ってきたので、来年はもっと多くの選手に受講させるつもりです。

ストライカー
将来のユース選手は通信制が当たり前になるかもしれないですね。

柴田
通信制を始めたのは、大きな理由があります。まず、学校に行ったからといって勉強するとは限らない。学校側も、子供が勉強しなくても無理に教えようとしない。そういう学校に行くくらいなら通信制のほうがいい。
僕たちにしても、先生になって教えることはできなくても、横で見てサポートすることはできる。学校の授業よりも僕たちに見られるほうが子供も真剣になりますからね。少なくとも眠ることは許されないから(笑)。
子供たちは勉強が嫌いなわけではない。最初は30点しかとれなくても、同じテストをやらせると必ず100点とったりする。そして小学生のような笑顔を浮かべて喜んでいる。やればできるんです。結果的に、僕たちといい関係を築くことにもなって、ピッチの上でもいい影響が出ています。
逆にいえば、サッカーの指導者といっても、サッカー以外の時間を共有することも必要。そういう考えもあって、ウィザスに手伝ってもらうようになりました。
個人的には、将来、よみうりランドの敷地内に学校を作りたいと考えています。もちろん、古沼先生にまとめていただいて。東京都内にこれだけの敷地があるところはそうないのだから、実現可能じゃないかと思ってるんですけど。

ストライカー
サッカーも勉強も両立するのが理想ではあっても、勉強が苦手な選手がいることに目を向けなければならないということですね。

古沼
サッカーに限らず、スポーツだけしかできない子供は、これまでたくさん見てきた。高校生なのに、信じられないくらいの学力しか持っていない子はたくさんいるよ(苦笑)。
でも間違いないのは、人の話を聞くとか、礼儀作法のできない子は大成しない。ボールを蹴る才能はいくらあってもコミュニケーションもとれないんだから。

ストライカー
今日はありがとうございました。

【お詫び】
当初の記事中(9月8日掲載)に不適当な表現がありましたことをお詫びします。

柴田峡監督
都石神井高、東京学芸大卒。
日本リーグの全日空などでプレーした後、1993年に東京ガス(現FC東京)で指導者の道を歩み始める。05年に東京ヴェルディに移り、ユース監督に就任。同年、クラブユース選手権、高円宮杯全日本ユースを制覇。

昼間聡欣(本誌)取材・文

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