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古沼貞雄 情熱 著: 元川悦子
古沼貞雄 情熱
著: 元川悦子
全国制覇9度の超名門・帝京高校サッカー部。偉業はどのようにして成し遂げられたのか? 名将・古沼監督の指導法が今明らかに!
高校サッカーの指導者にとって貴重な1冊となるだけではなく、若者を管理するマニュアルにも。
トップコラム古沼貞雄 表サッカー裏サッカー>生涯夢求 第3回 柴田峡監督(ヴェルディユース)[1]
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高校選手権へのリーグ戦導入に向けて アンケート集計結果発表

第3回 柴田峡監督(ヴェルディユース) [ページ1/2]

帝京高校で全国制覇9回という偉業を成し遂げた古沼貞雄氏に同行して、サッカー関係者と話し合う内容を伝えていこうという当連載。
第3回となる今回は、古沼氏がアドバイザ-として現在籍を置く東京ヴェルディ1969で、ユースチームの監督を務めている柴田峡氏を訪問した。
ユース年代では常に全国で優勝争いを演じる強豪チームを率いる2人ならではの話が、熱く語られた……。

『クラブの選手が本当のエリートといえるかというと疑問を感じます』(柴田)

ストライカー
長年高校サッカーを指導してきた古沼先生は、ヴェルディをはじめとするクラブのサッカーを、今はどのようにご覧になっていますか。

古沼
すべてを理解しているわけではないけれども、Jリーグのユースチームが恵まれた環境を与えられているのは確か。
中でもヴェルディは、この年代の強化に取り組んだのが早かったこともあって、トップクラスのチームを作り上げている。過去、何人もの指導者が携わってきた中で、特にプロができてからはプロ志向が強くなったのは間違いない。その結果、中学年代のトップレベルの才能を持った選手が数多くこのチームに集っている。
そしてそれはヴェルディに限ったことではなく、Jリーグクラブの傘下にある下部組織はどこも同じような状況で、自前の選手を育ててトップチームに貢献しようというのがどのチームにも共通している目標。
しかし現実には、プロ選手を育てるというのはそう簡単ではない。どこも思ったように育っていないというのが現状ではないかと思う。
例えば、サンフレッチェ広島は合宿生活を送らせながら選手を育てている。高校の協力も得ながらサッカーに取り組める環境を用意している。
サッカーをすることに関しては、確かに素晴らしい環境といえるかもしれない。しかし、多感期の高校生にとって、それが最善のものといえるかというと疑問は残る。町から離れた場所にあるので、サッカー以外のことに触れる機会がほとんどないんだよ。映画に行ったり、芝居を見たり、他のスポーツに触れたり、という都会の子供なら簡単にできるようなことが、なかなかできない。
サッカーだけに打ち込める子はいい。そういう子ももちろんいるだろう。でも、サッカー以外の興味が芽生えたときに、どのように解決するのか? そして、成長期の子供にとってそれが恵まれた環境といえるのだろうか?
誤解しないでほしいのは、都会のほうがいいというんじゃない。逆に都会には、誘惑が多いのでサッカーに打ち込みにくいという問題がある。要は、大人がよりよい環境を与えてあげることが重要で、そのための努力が十分になされているのか、ということ。
サンフレッチェは、ジェフやガンバと並んで、他のチームに比べればユースからトップへ昇格する選手が多いクラブだが、それでも十分とはいえない。
もちろん、高校サッカーだけでは日本のサッカーは発展しなかっただろうとは思う。しかし、むしろ私は最近、高校までは学校の部活で育てたほうがいいのではないかとさえ感じている。

柴田
ヴェルディも状況は同じですね。
全国優勝を何度も経験しているうちのジュニアユースから上がってくる選手をはじめ、中学生年代のトップレベルの選手が集っている。しかし、彼らが本当のエリートといえるかというと疑問を感じます。
練習時間ひとつとってもそう。5時に始まって終わるのは8時過ぎ。ここを出るのは9時過ぎで家に帰るのは10時。勉強する時間も家族と過ごす時間も、テレビを見る時間もなく、すぐに寝て、次の日また学校に行く。
学校、クラブ、寝る、学校、クラブ、寝る……。その繰り返しで、余裕がない。
学校の部活動であれば、4時には練習が始まって、7時には終わる。まっすぐ帰れば3時間くらいは勉強や家族との時間が持てるし、途中で友達とどこかに寄ったとしても9時には帰宅できるので、まだ余裕がある。
先生がいわれたように、多感期の子供にとって、サッカーと学校だけでいいのかというとやっぱりそうじゃないと思う。学校とどうつき合っていくかを含め、時間の使い方というものを、これからのクラブチームは考えなければならない。
本当にエリートとして育てるのなら、学校とは違った活動の仕方を模索していかないといけないでしょうね。
多くの人は、プロのコーチが教えてくれて立派な施設を持っているJリーグがうらやましいといいますけど、子供たちの現実的な生活を見ると、まだまだやらなければならないことは多いです。

古沼
繰り返すけれど、学校のチームと比べるとクラブは恵まれた面が多いのは確か。
この前も金沢のフェスティバルに行ったんだけど、そこに来ていたユースの指導者に苦言を呈したばかり。
Jのユースチームには複数の指導者がいて、そんなことは高校サッカーでは考えられない。高校の監督は授業があったり学校行事があったりするけど、クラブにはそれがない。それだけ恵まれているのだから、もっと強くなるのが当たり前じゃないのかと。実際にはいろいろと雑用があるのだろうけど、高校の指導者に比べれば恵まれている。
でも本当は、高校の指導者はサッカーをやめても生活が保証されているのに、クラブとなると何の保証もない。例えばの話、ユースから選手が育たないのを見かねたクラブの社長が「ユースなんかもういらない」といったら解雇されるかもしれない。そう考えたら大変(笑)。

ストライカー
柴田監督は東京出身ということなので、高校時代に帝京と対戦したこともあったと思いますが。

柴田
高校2年のときに2度対戦しました。
まず総体予選で0-5で、選手権予選では0-7で負けました。
もちろん古沼先生のことは存じ上げていましたけど、とにかく選手の印象が強烈だった。同期の平岡(和徳/現大津高監督)や前田(治/現サッカースクール代表)をはじめとして、後にJSLでプレーする選手がたくさんいた。インターハイで優勝した年なので、強いのも当たり前でしたけど、差を痛感しました。
母校のサッカー部の50年史があるんですけど、帝京との対戦はやはり特別で、代々のチームが試合した結果が書いてあります。

古沼
柴田君の時代の石神井高校は残念ながらあまり覚えてないけど、私が帝京に入った当時は強かった。審判の高田(静夫/元国際審判員)さんがエースで、上野(ニ三一/後の石神井高監督。現日比谷高教員)さんがGKだった。1-0でやっと勝った。私が監督になる前の年だったと思う。
私が監督になってすぐに、負けたこともあった。関東大会の予選で、帝京もいいチームだったけど守りきられて0-1でやられた。関東大会でも石神井は決勝まで行ったはず。
そうそう負けはしなかったけど、あの頃はよく苦戦させられたのを覚えている。

柴田
私のときの石神井は、都立とは思えないような先輩後輩の厳しさがありました。練習自体は特に変わったことは何もなくて、いつも決まったことをやっていましたね。

ストライカー
今の高校サッカーにとっては、どんなことが課題になっているのでしょうか。

古沼
特に今の高校チームは課題が多いように思う。それは地方の公立校でも変わらない。特に学校の理解を得るのにどこも苦労していて、公立の強豪校にとっても大変な時代になった。
あれだけ強かった鹿児島実が、神村学園という私立校の登場で苦労しているのが象徴的。
これから強くなるのは私立だろうね。

柴田
中体連でも私立が台頭していますからね。
今年の全国大会でも、優勝した日章学園をはじめ、青森山田とルーテルがベスト4に入った。
公立は国見だけで、その国見にしても、中高一貫指導で強くなったチーム。中学サッカーも、そういう時代になりました。

古沼
中学生年代ではクラブでも強化が進んでいる。ヴェルディのジュニアユースの子なんかみんなうまい。
クラブユース選手権では決勝で京都サンガに負けたけど、ガンバとヴェルディの準々決勝などは中学生とは思えないようなレベルの高いものだった。大げさではなく、Jリーグの縮小版といえるくらい。ほかの準々決勝が一段下のレベルに見えたくらいに素晴らしかった。
でも、彼らが3年後、5年後に順調に成長していけるのかというと、正直どうなんだろう。

柴田
そこなんですよ。
今年の中学3年生は久しぶりに当たり年だといわれているんですが、中でもヴェルディ、ガンバ、レイソル、サンガ、エスパルスがトップ5だと思います。
問題は、彼らのうちのどれだけをトップチームへとつなげていけるか。
例えば、うちのジュニアユースで試合に出られなかった子が今高校3年生になって、流通経済大柏で中心選手になっている例がある。
何が彼を成長させたかといえば、環境以外の何ものでもないと思います。
何かあるごとに「そんなんだからヴェルディで上へ上がれなかったんだよ」といわれたんだと思う。そうして歯を食いしばって頑張ったんでしょうね。
一方でうちのエリートといわれる選手も、彼らなりに頑張っているんです。私は、流通経済大柏に行ったかつての仲間のことをはっきり伝えて、それでハッパをかけています。

ストライカー
やはりいちばん大事なのは本人の気持ちということでしょうね。

柴田
もうひとつ外せないと思うのが、親の存在なんです。
ヴェルディに入ったことで安心してしまう親がいるのは事実。ヴェルディに入れたんだから、サッカーで生きていける、たとえ選手でプロになれなくても、そこそこの大学には入れるだろうと。優越感を持つ親もいるでしょう。
そういう親の気持ちが子供たちを蝕んでしまうことはあるかもしれない。
子供にとっても、これだけの環境でやれることで満足してしまう。ソフトでもハードでもこれだけの環境というのは他にはまずないですから。
そういうことを考えると、「本当のエリート教育って何だろう?」と考えないわけにはいかない。
また、勝負強さを身につけるにも、高体連のようなアプローチは絶対に必要。
さらに、教育ということでいえば、我々クラブにはまだ深さが足りない。学校に比べて。
そういうことを勉強しながら“クラブワーク”を学んでいる。今はそんな感じですね。

古沼
基本的には、高校とかクラブとか関係ないんだよ。人を一人前にさせるということを考えれば、どんな環境でも同じ。物がなければないなりに人は育つだろうし、素晴らしい環境があるならそういう育て方をするだけのこと。
高校のほうがいいとか、クラブのほうがいいとか、そういう問題じゃあない。どっちでも、やらせ方というのがある。
極端にいえば、プロ選手を育てるためには、学問はある程度度外視しないといけないと私は思う。職人を育てるようにプロのサッカー選手を育てる。そういうイメージ。
また、大工にしても左官屋にしても、本当の名人になる人というのは、特別な教育を受けなくても学のある人が大勢いる。だから、学校に行けなくても、どこかでカバーすればいいだけのことだと思う。

>ページ[2]へ続く

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